私の頭の中の蛇口


 たまに、誰かに頭の中の蛇口をひねられたみたいに、物思いがどうどうと流れだしてとまらないことがあって、今日もそんな日。そんな日は、頭がぎゅっとして、とても疲れる。こめかみあたりをぐりぐりと拳でマッサージする。

 そういえば、小学生の頃、放課後、通っていた学校の校庭にあった水道の蛇口がとれかかっていて、あれ?と思って直そうとしたら、コロンと簡単にとれてしまって、そうしたら、水道の穴から大量の水がものすごい勢いで飛び出してきて、大変なことになった。飛び出した水は2、3メートルくらい先までのきれいな放物線を描き、私の服はぐっしょりと濡れた。校庭にいた子どもがみんな集まってきて、ざわざわとして、あの人が犯人?みたいな目で私を見た。私はいたたまれなくなって、ひっそりとその場を去った。最初から壊れかかっていたのを、直そうと思ってただ、触っただけなのに。次の日には何事もなかったみたいに、水道は直ってた。

 最近はあまり深刻なことは考えないようにしている。差し迫って考える必要がないからだ。必要がないのに、考えることで消耗してしまうことがあるからだ。考えるきっかけになるようなものにも、なるべく触れないようにしている。それよりもまずは今の自分の足場を、しっかりと固めることの方が先だと思っている。話はそれから。


 ふと、伊坂幸太郎の「重力ピエロ」に出てきた言葉を思い出した。

「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」春は、誰に言うわけでもなさそうで、噛み締めるように言った。「重いものを背負いながら、タップを踏むように」

重力ピエロ (新潮文庫)

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 そして、私がずっと大事に持っている、「音楽と人」という雑誌の2006年4月号、甲本ヒロト峯田和伸の対談の言葉たちも、続けて思い出した。

峯田「そう、さらけだしてる、ってよく言われるんですけどね。ライヴでさらけだしてるとか。でも、さらけだしてないっすよね?」
ヒロト「ない、ない。さらけだしてないし。出す気もねえし。表現するってことは、真の自分をさらけだすことじゃねえからな。そういうんじゃないよ。だけど、世間の人からはそう見られてるんじゃねえかってところが、何か癪にさわるんだよな。自分は何かさらけだしてるじゃねえか、とか、さらけだそうとしてるじゃねえか、とか。正直にやろうとしてるだろう、とか。そう思われてることが癪にさわってさ、◯◯◯◯出しちゃうんだよ」
峯田「そう、ラモーンズが、<ベースボールバットで俺の母ちゃんぶっ叩いて>って唄ってるじゃないですか?でもそうライヴで唄われても、どっかで笑っちゃうというか」
ヒロト「笑えるよね」
峯田「本気でやろうとしてることじゃないっていうか。そういうのをやりたいんですよね、たぶん僕も。なんか……笑えちゃうっていうのがいいんですね。それを真に受けてしまうお客さんもたぶんいると思うんですけど。でも、そういうものにはしたくないというか。<世の中を暗黒に染めてやる!>って唄ってても、本気でそういうのをやりたくはないんですね。もっと茶目っ気があって。<日本発狂!>とか言ってても、やっぱり普通にマンガ買えて、レコード聴ければいいっていうのがあるんですね」
ヒロト「僕は日本武道館ピストルズ観た時にね、ものすごく痛快だったよ。爆笑だったもん。アジアの国でさ、しかも日本武道館なんて場所に、英語のよくわかんない日本人が1万人くらい集まってさ。全員で<I wanna be an anarchy>って唄ってるんだよ。<no future>とか(笑)。なんだこれ!?って。ホント、最高に痛快でね。シュールで馬鹿げた空間。で、彼らは、その空間を作ったね。セックス・ピストルズは。パンクな、最高の馬鹿だよ」
――自分達も、そういう空間を作ってる感じってあります?
峯田「客観的に見れればいいんですけどね」
ヒロト「見れないよな」
峯田「ライヴ中に自分がライヴをやってるところを見れたら<これならバンド辞めちまおう>って思っちゃうかもしんない。<こんな面白いことやってんだ>って思えればいいんだけど。そんな余裕ねえんだよなあ。歌詞間違えたとか、そんなことばっか気になって」
ヒロト「そうするとさ、自分のアウト・オブ・コントロールな部分が、かなりステージの上で占めてしまうじゃん。表現者としてはさ、なんかこう……腑に落ちねえんだよ。<こんなこともやりたい、こんなことをみせたい>って思ってもさ、一旦ステージに乗っちゃうとさ、自分のコントロールできない、制御不能なところって出てきちゃうんだよ。そこで、自分の中で闘うんだな。お客さんが自分の本質を見抜くんじゃねえかっていう恐怖と。俺がアタフタしてることによって、余裕のなさによって、不特定多数の人に自分を知られるんじゃねえかっていう恐怖っていうのが凄くある。さらけだしてたまるか、っていうね」
峯田「やっぱりステージに立ってしまうと……なんかおかしな話なんですけど、曲にいく前のMCみたいなので、昨日こういうこと思ったとか、そういうのをうわぁーって言っちゃって。そういうのはあります。なんか頭がパーになってるんでしょうね。別に言わなくてもいいことばっか言ってて。で嫌われたりするんですけど」
ヒロト「嫌われる、嫌われる(笑)」
峯田「でもなんか、言わないとダメみたいになっちゃうんですね。言わないと、ただカッコいいだけで終わっちゃうような気がして。やっべ〜とか思って、なんか言おうとかするんですけど。カッコいいことなんて、別になんにもねえし」
ヒロト「あははははは」
峯田「別れた彼女を思い出して、その話とかしちゃうし。それって、さらけだすというのとは違うんですよね」
ヒロト「違うね。でも違うんだけど、そうなってる自分を観た時に、その裏の裏までお客さんに見られているような気がして怖いんだ、俺」
峯田「確かに怖いっすね」
ヒロト「それが嫌でさ。なんか◯◯◯でも見とけ!ってなるんだよねえ」

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 長い長い引用。伏せ字は、ご想像にお任せします。

 こういう好きな人やものたちが今の私を作っていて、だから私も大体、同じようなことを考えている。上記の言葉たちを思い出したのは、昨晩読んだズイショさんのブログの影響かもしれないです。なんとなく、書かれていることと少しだけ近い内容の気がしました。