里帰りの日


里帰りの日、私は夫が運転する車の助手席に乗って、夜の高速道路を走っていた。私は車のことをよくわからないのだけど、SUV車というのだろうか。後部座席を全部倒すと、トランクとの間に仕切りがなくなり、荷物をたくさん入れられる。事情があって1年間実家にいる予定なので、持って帰る服やら何やらの段ボールが、車にはたくさん詰め込まれていた。妊娠8ヶ月を過ぎた頃から、急に体が重たくなって、しかも子宮口が少し開いているからできるだけ安静に、と健診で言われてしまったものだから、私は動いたり、重いものを持ったりを避けている。荷物を詰めるところまでは、ふうふう言いながら何とかやったけれど、その移動や積み下ろしは全部夫がやってくれた。ありがたい。

車に繋がっている古いipod classicは、私が10年前くらいに買ったやつだ。まだ何とか動く。その中には夫好みの音楽はほとんど入っていないのだけど、車に乗る時はいつも気を遣って、運転する夫の好みに比較的寄り添える音楽を選んでかけていた。でもその時は、自分が聞きたい音楽をかけたいなあ、と思って、ふと懐かしくなって、ある時期にとてもよく聞いていた、RCサクセションのsoulmatesというベストをかけた。

初めはだまってキヨシローの歌声に耳を傾けていたのだけど、トランジスタ・ラジオが流れてきたら、ついつい口ずさんでしまう。平易な言葉遣いなのに、なんて素敵な歌詞なんだろう。でも、平易ではあるけれど、言葉の使い方も、歌の歌い方も、シャウトのしかたも、全部が全部キヨシローでしかない。キヨシローはいつだって、完璧にキヨシローだったんだなあ。ふとそんなことを思う。

夫としばらく離れて暮らさなくてはいけないこと、頭で納得はしているけれど、やっぱり寂しくて、何となく、ヒッピーに捧ぐが聞きたかった。そう、ほんとうは最初から、この曲が聞きたかったんだ。

「お別れは突然やってきて
すぐに済んでしまった
いつものようななにげない朝は
知らん顔してぼくを起こした」

これもまた、なんて素敵な歌詞なんだろう。キヨシローが亡くなった日、友達がツイッターで、今泣きながらこの曲を聞いてる、ってつぶやいてたことを思い出す。私もこの曲をきいて、この寂しさの中にどっぷり浸かりたいって、思っていたのだけれども、なんだか音源の音が悪くて、曲の最後のほうはゴチャッとした感じに仕上がっていて、何を歌っているのかもよくわからない。もうちょっと丁寧に録音してくれよ、とかえらそうなことを思ってしまい、どうにも浸りきれないのだった。

アルバムの最後の曲の、雨上がりの夜空にのイントロが流れてきたあたりで、海老名サービスエリアについた。その頃にはすっかりと気持ちは現実に戻っていて、トイレに行って、夫用のコーヒーを買って、東京まで、もうひとがんばり。