誰かに会えそうな街、新宿


新宿をぶらぶらする。
小田急線の改札の南口から降りて、その途端、右に左に流れる人波に、圧倒される。
私はルミネ1だか2だかに行きたいお店があったのだけど、どっちだか忘れてしまって、そもそも、いつもどっちか1でどっちか2だかわからなくなってしまう。
ルミネカードを持ち、ルミネストとして生きてはや10年、もういい加減おぼえるべきだと思うけど、今頑張っておぼえてもきっとまた忘れてしまうだろう。
スマホで調べて、よしこっちだと、JRの南口の改札に近いほうのルミネに行って、エスカレーターを上った途端、広がる華やかな世界にまた、圧倒されてしまうのだった。
私は雑誌を読むのが好きで、ファッション誌を読むのも好きで、最近は自分で買わずに、友達と会う前などにちょっくら今の流行を調べに、図書館に行って読んでいる。
図書館って結構雑誌が豊富にあるのね、というのも、主婦になってから知ったことだ。
そうしてそこにのっているコーディネートを参考にして、服装を考えたりするのだった。
で、雑誌で見て、行ってみたいなと思ってたブランドがもうばばんと、入ってすぐのところに入ってて、ああ東京すごい、東京すごいよと改めて思う。(東京生まれだけど。)
でも実際にお店を見てみると、たいして惹かれるものはないのだった。
周りはおしゃれな子、かわいい子ばかりで、ふと自分は大丈夫なのかと不安になり、お店で服を合わせるふりをして、自分の姿を鏡で確かめる。
家を出た時は、もうちょっといい感じに見えてた気がしたけど、全然いい感じじゃなかったわ。超勘違いだったわ。
そう思ったらもうできるだけ鏡は見ないようにしながら、ワンフロアをなんとなくうろうろする。
やっすいTシャツがほしいわ、カラフルなやつがほしいわ、とか思って、ルミネはまだセールじゃなかったから、外に出て隣のflagsのGAPにでも行こうと思って、東南口のところのエスカレーターを下りていたら、なんか、この光景を一体何度見ただろう、このへんで一体何度誰かと待ち合わせしただろうと、ものすごい既視感に襲われて、呆然としてしまう。
ここは音楽スタジオが近くにあるから、昔付き合っていた人がベースをしょって木のところにいるのを、その背の低めの後ろ姿を、一緒のバンドのギターをやっている人ののっぽの後ろ姿も一緒に、そういえば数年前に見かけたりもした。その時も私は、そのGAPで買い物をして、紺色の紙袋をぶら下げていた。きっとその人ひとりでいたら気付かなくて、ギターの人との凸凹で、わかったのだ。
ぼうっとしていて、広告のティッシュを押し付けてくる男性にへどもどしながら、何だか誰かに会えそうな気がして、会いたくて、flagsはもう見る気がしなくなって、東口のほうへと続く道を、誰かを探しながら歩く。
もちろん誰に会えるわけもなく、街ゆく人はみんなそれなりにおしゃれで、でもどこか似たような感じで、こうして人を見ていると服の流行がわかるな、やっぱり今日の服はウエストインしてくるべきだった、などと考えて、頭の中はまたうつろってゆくのだった。


結婚して、会社をやめて、少しだけど遠方に住んで、そうすると自然に、会う人は絞りこまれてゆくから、会わない人とはきっともう会わない。
でも会いたい。
例えば偶然に、新宿なんかで会えたらいい。


東口から地下に降りて、地下道を通って、西武新宿駅のほうへと向かう。
歌舞伎町の近くを通るのが嫌いだから、遠回りだけどいつも地下道を使うのだ。
地下街のサブナードまでたどり着けばそこはもうホームで、ちょっとださくて、人通りも少なくて、ようやくほっとすることができる。
ただサブナードのわりとよく行っていた本屋がおしゃれなディスプレイに変わっていて、逆に何だか見にくいし、品ぞろえも悪くなっていたのでがっかりした。
サブナード直結の駅ビルのペペの中のエスカレーターを上って、西武新宿駅について、ほんとうは各駅停車に乗ってゆったりと行きたかったけど、急いでいたので発車直前の急行電車に飛び乗る。
そうして電車は見慣れた街並みの中を走ってゆく。
まだ少し、誰かに会えるんじゃないかと期待していたけど、そう簡単に会えるはずもないのだった。