あすなろう


怠けものなので、ともすれば怠けようとしてしまいます。
困ったものだ。

でも先日自分で書いた自分の気持ちを読み返すと、ああ動かなきゃ、と思います。

anohika.hatenablog.com


解決の糸口が見つかっていなくも、過程の気持ちを書いておくのはいいことなのかもしれない。

はやる気持ちもそのままにしておけば自然と凪いで、ふと気がつけばまた怠けている自分がいるので、自分で書いたものを自分で読んで自分の気持ちを追体験。


そのエントリの最後にこう書きました。

頑張らなきゃ、頑張らなきゃ、でも今はちょっと気持ちが元気じゃなくて、どうにかしてまずは元気になることを考えよう、などと思うけど、いつも「元気になってから」「コンディションが良い時に」とか思っていて結局なかなか何も手につかないということはよくあって、それは私の悪い癖なのでしょう、まずとりあえずはやることだ、行動をおこすことだ。


良いパフォーマンスを発揮し続けるためには自分がフラットな状態であるのが良い、と私は思っていて(マイナスやプラスの感情が発するエネルギーも大きいと思いますが、それらはいつか枯渇するような気がするので)、でもフラットな状態なんていうのは人間なかなかなく、いやむしろ私は自ら進んで常に何かしらの悩み事や課題を見つけようとしているんじゃないかと、今ふと思いました。

そうしたらいつまでたってもフラットな状態なんてなれなくて、いつまでたっても「あすなろ」のままなんじゃないか。


「あすなろ」というのは井上靖さんの『あすなろ物語』という小説にあった言葉で(柴門ふみさんのマンガじゃないよ)、この小説を読んだのは小学生の時だけど、心にずっと残っています。

この小説には主人公の少年が青年時代を経て新聞記者になり、終戦を迎えるまでの過程が描かれているのですが(短篇集です)、主人公は幼い頃自分に多大な影響を与えた親戚の若い娘(のちに恋人と心中する)が自分に遺してくれたこの言葉を、折にふれて思い出すのです。

鮎太はいつか冴子が家の庭にある翌檜(あすなろう)の木のことを、
あすは檜になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだって!それであすなろうと言うのよ
と、多少の軽蔑をこめて説明してくれたことが、その時の彼女のきらきらした眼と一緒に思い出されて来た。


今調べたら、ここにも「あすなろ」についてわかりやすく書いてありました。
「なれずともなりたいと頑張る意味」とあります。
定期連載:堀田力の生き方自分流


あすなろ物語』もそうですが、私は井上靖さんの自伝的小説のシリーズ(『しろばんば』『夏草冬濤』『北の海』)が好きで、今年の1月に静岡県の三島にある「井上靖文学館」にも遊びに行ってきました。
(といってもそこのみが目的だったわけではなく、井上靖文学館は「クレマチスの丘」という文化複合施設の中にあり、ほかにも「ベルナール・ビュッフェ美術館」「ヴァンジ彫刻美術館」など色々あって楽しげだったので。「クレマチスの丘」、おすすめの場所です)


井上靖さんは新聞記者をやっていて、確か40代で職業小説家になった方なのですが、館内で井上さんのインタビュー映像のようなものを流しており、

「自分は40代で仕事も生活もある程度脂が乗って、先が見えていた状態で小説を書き始めたので、好きなことを書けた。それが良かった。」

みたいなこと(要約)をおっしゃっていて、ああ。と思いました。


私の好きな人が、私が考えていたことに近いようなことを言っている。
(私は「フラットな状態で小説を書き始めたのが良かった」という意味に解釈しました。)

そしてその人は「あすなろ」の気持ちも知っている人で、でもその人は「檜」になったんだ。


そっか、やっぱりそうだよね、いつか檜になれるよう、私も頑張ろうって、少し背中を押されたような気持ちになったことを、今書いていて思い出しました。

自分にとっての「檜」がなんなのかは、まだよくわかりませんが。それを見つけるのが第一かな。。


そういえば、『あすなろ物語』の中でもうひとつ鍵となっている言葉が、「克己」だった。
主人公の幼い頃に影響を与えたもうひとりの人物(親戚の娘の恋人)が、主人公に教えた言葉。

「君、勉強するってことは、なかなか大変だよ。遊びたい気持に勝たなければ駄目、克己って言葉知っている?」
「知っています」
「自分に克って机に向かうんだな。入学試験ばかりではない。人間一生そうでなければいけない」
 鮎太は、この時、何か知らないが生まれて初めてのものが、自分の心に流れ込んで来たのを感じた。今まで夢にも考えたことのなかった明るいような、そのまた反対に暗いような、重いどろどろした流れのようなものが、心の全面に隙間なく非常に確実な速度と拡がり方で流れ込んで来るのを感じた。不思議な陶酔だった。


「あすなろ」と「克己」の間を漂いながら、少しずつ前に進んでいこう。


あすなろ物語 (新潮文庫)

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