ものすごく個人的な『火花』の感想


先日実家に帰った時、又吉くんの『火花』があったので読んだ。
アメトーークの読書芸人を見て、買いそうになっていたところだったのでちょうどよかった。
母が友達から借りたものですぐに返さなくてはいけないというので慌てて読んだら、2時間くらいで読めた。

本業ではないにもかかわらずしっかり書けているし、いいなと思うところもあったけど、好みではなかったかな。

以下、感想ですが、若干のネタバレを含むし、これから読みたいと思っている方の気持ちに水を差してしまうかもしれないので、興味のある方だけどうぞ。

本が手元になくて記憶だけで書いてるので、ずれてたらすいません。


***


私が好みではない、と思った理由は、主人公が作中で「師匠」と呼ぶキャラクターを、そんなに好きじゃなかったからだと思う。

その人をどうして「師匠」としようと思ったのか、それもよく理解できなかったし、物語の大部分が「師匠」との語らい(というかほとんど「師匠」の語り)で構成されていて、なんか説明的だなと思ったし、「師匠」が語る内容も、そんなに共感できなかったし、「師匠」は語るばっかりで、結局ほとんど何もしていなかった、と思った。

ただ最後に「師匠」がしたことは、とても愛おしいというか、ようやく腑に落ちてプッとなれたというか、そのちょっと前の「スパークス」の漫才シーンはホロリときて、そこがハイライトと思った人が多いかもしれないけど、私的には「師匠」のこの最後がハイライトで、いいなと思った。
amazonのレビューでは最後は蛇足だ、みたいに言ってる人もいたけど…)

まあ、「師匠」はあえて「語るばっかりで結局何も残せなかった」人物、という風に描かれたのだろうし、そうしてどん詰まった結果起こした行動が最後のあれ、ということなんだろうし、だから物語の構成としてはきっとああで良かったのだろうから、やっぱり「師匠」に共感できなかった、というところが、私がこの小説と合わなかった最大の理由なんだろうと思う。

あとは、「お笑い」がテーマの小説で、笑いを誘う風な描写もあったけど、そんなに笑えなかった。
まあ、笑いのツボは人それぞれなので…。
それだったら私は町田康の小説やエッセイのほうがププー!ってなる。
(私が町田康のファンっていう贔屓目かもしれぬ。文章の書き方も正直影響受けてると思う。町田康の音楽も好きです。「犬とチャーハンのすきま」っていうアルバムとか超最高です!)


で、私が「師匠」のことを好きじゃない、共感できないと思ったのは、お笑い至上主義というか、芸人特有の世界観みたいなものが、基本的に苦手だからだと思う。

だから結局、物語中で芸人である「師匠」が笑いについて真摯に語っている内容がちゃんと心に入ってこないというか、つつーと文字の表面を追うばかりになってしまうというか。
たぶんそこがこの小説の肝でもあると思うんですが。


ここからは私個人の考え方というか、偏見も含むし、本の感想とは話がずれるのですが…

笑いで人の価値観をひっくり返す、みたいなのって、時にあえてタブーに触れたり、とか、ひどいことや痛いことをしてみたり、とか、どうしてもどこか人の気持ちを無下にするような側面がある気がしていて。
そういうのってやっぱり、どうしても苦手なんです。

私がそういう風に思うようになった理由の一端として、大学時代のサークルの経験もあって、男が多いサークルだったからかもしれませんが、なんだろう、男同士が集まると面白さを追究するあまりある種独特のノリが生まれることがあって、そういう時って結構ひどいことをしでかしたりするんですよね。
時にはいじめに近いような。
そういうノリに巻き込まれて傷ついたこともあり。

度を超えれば超えるほどいい、みたいな感じで、競争し合って、どんどんエスカレートしていくというか、そういう限界を超えられたやつこそが真の漢、みたいな(?)、不思議なヒエラルキーができていたりして。

そういうのが楽しいこともあるし、必ずしも悪いほうに転ぶわけではないとは思うのですが…
芸人の世界観も、そんな感じのところがあるのかなあと。


まあ、そういう私個人の経験あってのそんな考え方で、そんな考え方あってのこの感想になるので、うん、まあ、つまり、ものすごく個人的な感想というわけでした。


火花

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犬とチャーハンのすきま

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