ひとつになれる


昨日は駒沢公園で開催されているオクトーバーフェストに行ってきた。

軽い二日酔いで、また思いつきで行くことにしたため日焼け対策や歩きやすい靴や(駅から結構歩いた)、そういった準備が足りていなくて、最初はちょっと憂鬱だった。

座席が並べられたテントで外国人のバンド演奏があって、ステージの前にはちょっとしたスペースもあって、ビールを飲んで浮かれた人たちがアインプロージットなどの民族音楽に合わせて踊っている。

どうせクラブやフェスで踊り慣れたやつらだよ、と斜に構えていたけど(すいません)、15時くらいから行ってだんだん日が落ちてくると涼しくなってきて、そうしたらようやく楽しい気持ちになって、気がつけば一緒になって踊っている。

そうしてまた気持ちは過去に遡る。


私はドイツの本場のオクトーバーフェストに行ったことがある。

ドイツは落ち着いた国だった。
一緒に旅行に行った友達も私も、その当時仕事や恋愛や結婚のことで悩んでいた。
そんな風に色々な人生の段階があって、変わっていくことは避けられないんだな、二人の間柄もこれまでとは違っていくんだろうな、という予感めいたものがあり、旅の間はずっとしんみりとした空気が流れていた気がする。

でも老舗のビアホールのホーフブロイハウスに行って、だだっ広いホールにたくさんの人がぎゅうぎゅうに座ってどでかいビールを飲みながらごうごうと騒いでいる光景を見て。
アインプロージットの生演奏とともみんなが乾杯してにひとつになって。

心が震えた。
ドイツ人の魂を見た気がしたんだ。
ほんとだよ。

この規模は日本にないなって思った。

旅の最終日のオクトーバーフェストはお祭り騒ぎだった。
たくさんの巨大なテント(仮設のビアホールのようなもの)と、移動遊園地と。
老若男女、誰もがおそろいの民族衣装を着て浮かれていて(日本で言えば浴衣のような感じ)、私たちも魔女みたいな三角のとんがり帽子を買ってかぶって、一緒になって浮かれていた。

そんな高揚した気持ちの中で、1リットルの重たいジョッキに入ったビールを、どこも席があいていないので仕方なく立って飲んでいて、ふと、その旅で初めてくらいの、素直な気持ちを口にすることができたんだ。

周りが賑やかすぎて、一生懸命声をはらなきゃ友達に届かなかった。
だから一生懸命、伝えた。

後になって友達が言った。
「あの時●●がああ言ってくれてよかったよ。」


そうしてまた別の話。

銀座の松坂屋の近くに、ゲルマニアという小さな小さなビアホールがあって、会社の上司に何度か連れていってもらったことがある。
(ちなみに有楽町にはホーフブロイハウスもあって、そこにも連れていってもらったりした。)
その上司は私にとって会社の中で数少ない尊敬できる人のひとりで、仕事の基本はぜんぶその人から教わったのだった。

ゲルマニアでも、ピアノの生演奏で、アインプロージットをみんなで歌ったな。
普段真面目な上司もその時ばかりは浮かれていて、心の中でえええと思いながらも、一緒に腕を組んで歌ったよ。

たぶん日本で働いているドイツ人の人が一人で飲みにきたりもしていて、音楽を聴いてひっそりと微笑みながら、陶器のジョッキを揺らしてた。
きっと心の中の故郷を思ってた。


オアンス、ツヴォア、ドライ、ズッファ!プロースト!
(1、2、3、飲み干せ!乾杯!)


掛け声と共に、同じ机の人だけじゃなく隣の机の人とも、そのドイツ人ともジョッキを鳴らして乾杯する。

その時だけはみんなひとつになれる。

松坂屋ゲルマニアも、今はもうなくなってしまった。