呼吸


鈍行列車にずっと揺られて、東京までやってきて、色々な思いが頭の中に浮かんでは消え、でもほんとうは眠いから寝たい。
だから呼吸に集中することにする。

吸って、止めて、吐いて。
123、123456、12345678。
このカウントが正しいのかはわからない。

たまにうとうとしながら、目的地が近づくにつれ緊張してくる。
最近は友達と会う前はいつも緊張している。
胸がドキドキして、呼吸が浅くなってくる。
付き合いの長さは関係なく、誰と会う時でも等しくそうだ。
どうして友達に緊張する必要があるんだろう。
そう思うけど、身体は勝手に反応する。

そうしたら、また呼吸。
吸って、止めて、吐いて。
123、123456、12345678。

早めに駅に着いてしまった。
ほんとうは少し遅れたい。
みんなが適当な話をして、場がほんのり温まってきたくらいのタイミングで入りたい。

駅前で立ち止まってゆっくりお店の地図など眺め、道を確認して、方向音痴なので迷うかもしれないと思ったけど、徒歩3分という案内通り着いてしまう。

待ち合わせの5分前。
結局一番乗りだ。

待っている間手持ち無沙汰にスマホをいじるけど、充電があまりないのですぐにいじるのをやめる。

女子会っぽい、かわいいお店だ。
隣の席は壁際に机があって、かわいい女の子が4人、横長の椅子にぎゅうぎゅうと並んで座っている。
好きだのやったの、そんな話をしていて、ああ女子会っぽいなと思う。

聞き耳を立てているうちに友達がひとり、またひとりとやってきて、近況報告に端を発したおしゃべりが少しずつ始まってゆく。

最初は頑張って話しているのだけど、お酒を飲んでいるうちに口が滑らかになってきて、言わなくてもいいことまで言うくらいになる。
でもそういうことは言った直後にもう後悔して、気をつけようと襟を正して、でもまたうっかりと口を滑らしては後悔したりを繰り返し、そんな風に一瞬一瞬自分を再構築するのに少し疲れながらも、それなりに楽しく時間は過ぎてゆく。
でもあんまり食欲は出なくて、やっぱり緊張しているのにかわりはないのだった。

友達の話を聞きながら、たまに意識だけがあさっての方向に飛んでゆくことがあって、でもそんなあさっての意識がいちばん最初に揺れをキャッチした。

思わず話を遮り、揺れてない?と口に出す。

雑居ビルの上の方にあるお店だから、大きな地震だと、結構揺れるみたいだった。

ぐいーん、ぐいーん。

そんな長く丸い揺れを感じながら、311のあの瞬間に意識は急速に遡ってゆく。
あの時、オフィスビルの12階にいた。
建物がこんな風に揺れることがあるなんて、それまでは知らなかった。

ああ、怖かったね。
お疲れー。

揺れが落ち着いた頃、ふうっと息を吐いてそんな風に言ったら、なごむわー、と友達が言って少し嬉しかった。

色々な話をして、店を出る頃にはもう11時をまわっていた。

ビルのエレベーターが止まっていたので階段で降りた。
駅の電車の時刻表示も消えていて、地震の影響は結構あったんだな、と思う。

何だか頭が痛い。
普段のどごしオールライトばかり飲んでいると、どんどんお酒に弱くなる。
でも4人でワインボトル2本あいたから、そこそこは飲んでいたのかな。

実家に帰ると両親はもう寝ている。

私は頭痛でなかなか眠れない。
ううー、とかあー、とか唸りながら、夜中の2時くらいになってしまって、きっとiPhoneをおやすみモードにしてるから鳴らないだろうと夫にLINEを二言ばかり送る。

階下におりて頭痛薬を飲んで、何だかお腹が空いてきたので冷蔵庫の中にあったお好み焼きを食べて、そうしたらずいぶんと気持ちが落ち着いて、眠れそうな気がしてくる。

また呼吸。
吸って、止めて、吐いて。
123、123456、12345678。

そうしていつのまにか眠りにつく。

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