ほんとうのこと
ほんとうのことを話す時はいつも、涙が出てしまう。
普段はたいてい、どうでもいいことを話しているのだ。
大事なことのように見えても、もう自分のなかで整理のついている、大丈夫なことを話しているのだ。
「ほんとうのこと」は、自分のなかのまだ片付いていない、混沌とした感情。
それを上手にすくいだして言葉にするのは、とても難しい。
だからほんとうのことを話すことは滅多にない。
話そうとしてもうまく話せない。
それでも、誰かと何かが通じ合ったある瞬間に、ふいにぽろりとこぼれ落ちてきたりする。
***
この本を読んだ。
- 作者: 小川洋子,河合隼雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08
- メディア: 単行本
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河合隼雄さんの言葉は不思議だ。
個別の事情をこえた、とても普遍的なことをお話されている。
すべての人の心に届くような話でもあり、強烈に私個人の心の扉をノックしてくるような話でもある。
でも、全部「ほんとうのこと」みたい。
やわらかい、わかりやすい語り口が沁みわたり、なんだか色んなことが思い起こされて、読みながら泣いてしまった。
ピンポイントでこことか、これという理由とかではなく、泣いてしまった。
本の向こうの河合隼雄さんと、本を読んでいる私の「ほんとう」が、本を読んでいた一瞬、きっと交じり合ったんだ。
お医者さんに、魂とは何ですか、と言われて、僕はよくこれを言いますよ。
分けられないものを明確に分けた途端に消えるものを魂というと。
善とか悪とかでもそうです。
だから、魂の観点からものを見るというのは、そういう区別を全部、一遍、ご破産にして見るということなんです。
障害のある人とない人、男と女、そういう区別を全部消して見る。
(本文より。改行は私による)
すべての区別をなくして、魂でよりそえる人。
それがきっと河合隼雄さんだったんだろう。
「ほんとう」って、もしかして魂みたいなものなのかもしれない。