ほんとうのこと


ほんとうのことを話す時はいつも、涙が出てしまう。

普段はたいてい、どうでもいいことを話しているのだ。

大事なことのように見えても、もう自分のなかで整理のついている、大丈夫なことを話しているのだ。

「ほんとうのこと」は、自分のなかのまだ片付いていない、混沌とした感情。

それを上手にすくいだして言葉にするのは、とても難しい。

だからほんとうのことを話すことは滅多にない。

話そうとしてもうまく話せない。

それでも、誰かと何かが通じ合ったある瞬間に、ふいにぽろりとこぼれ落ちてきたりする。


***


この本を読んだ。

生きるとは、自分の物語をつくること

生きるとは、自分の物語をつくること


河合隼雄さんの言葉は不思議だ。

個別の事情をこえた、とても普遍的なことをお話されている。

すべての人の心に届くような話でもあり、強烈に私個人の心の扉をノックしてくるような話でもある。

でも、全部「ほんとうのこと」みたい。

やわらかい、わかりやすい語り口が沁みわたり、なんだか色んなことが思い起こされて、読みながら泣いてしまった。

ピンポイントでこことか、これという理由とかではなく、泣いてしまった。

本の向こうの河合隼雄さんと、本を読んでいる私の「ほんとう」が、本を読んでいた一瞬、きっと交じり合ったんだ。

お医者さんに、魂とは何ですか、と言われて、僕はよくこれを言いますよ。
分けられないものを明確に分けた途端に消えるものを魂というと。
善とか悪とかでもそうです。
だから、魂の観点からものを見るというのは、そういう区別を全部、一遍、ご破産にして見るということなんです。
障害のある人とない人、男と女、そういう区別を全部消して見る。

(本文より。改行は私による)


すべての区別をなくして、魂でよりそえる人。

それがきっと河合隼雄さんだったんだろう。


「ほんとう」って、もしかして魂みたいなものなのかもしれない。